トレンドマイクロ創業者は台湾の新人類
コンピューター・ウイルスやハッカーなどの脅威は、世界的に大きな問題となっているが、張明正(チャン・ミンジャン)はウイルスと戦い世界を守ろうとする企業、
トレンドマイクロの創業者だ。
台湾の新人類と言われた彼は、同社を世界屈指のソフト会社に成長させただけでなく、ソフトウェアの世界で台湾の実力を知らしめたともいえる。
その張氏は、2005年に経営の第一線から退き、今は国際社会貢献活動などで忙しく世界中を飛び回っているが、その意図するところなどを聞いてみた。
(以下、Q&Aで表記)
Q:なぜ、そのような活動に精を出すようになったのか?
「キッカケはいくつかあり、中でも大きいのは、02年の終わり頃に米国の経営雑誌”ハーバード・ビジネス・レビュー”に掲載されていた”アントレプレナー(起業家)はなぜスケールアップできないのか?”という論文を読み、大きな衝撃を受けたこと」
「その論文には、”
創業経営者が陥りやすい四つの落とし穴”が書かれており、たとえば、会社を成功に導いた功労者である創業時のメンバーは結束が固く、組織に対する忠誠心も高い。だが、会社の成長に伴う環境の変化に適応できるとは限らず、創業者は古参幹部に対する気兼ねと彼らへの無条件の信頼により、会社の成長を阻害してしまう。また、社内から出てきた新しいアイディアを摘んでしまうことで、大きな発展ができなくなってしまうことなどだ」
「将来的なトレンドマイクロの成長を考えるうえでは避けて通れない転換点として、05年に陳怡樺(エバ・チェン)にCEOを引き継ぎ、私は新経営チームに対するコーチ役に回ることにした」
Q:これまでの経営方針との違いは?
「05年以降、過去の自分と正反対のことを考えるようになった。たとえば、社員のパフォーマンスを上げるには、すべて数字に置き換えた評価指標で測定して管理するのではなく、社員の
“潜在能力”を発揮できる環境を整備したほうが、継続してイノベーションがわき上がりやすい。そのためには考え方を変え、仕事のやり方をも変えていく必要がある」
「私たち
トレンドマイクロの存在価値は、顧客企業の“知的財産”を守るためにイノベーションを生み出す“知識労働者”という点にこそある。現在、世界の32ヵ国に拠点があるので、いかにして新しい企業文化を定着させていくかが、私の課題である」