「2010年起業家ビザ法」の狙いとは?
3月3日付けの BusinessWeek によれば、「2010年起業家ビザ法」をプッシュするワシントンの投資家グループは、外国人起業家の滞在を容易にすればアメリカでの仕事が増えると主張している。
2月末に民主党のジョン・ケリー上院議員と共和党のリチャード・ルーガー上院議員とが共同で議会に提出した同法案は、米国で起業する外国人起業家を対象に新たなビザ制度を導入しようとするもの。
ケリー上院議員は、
「この法案は米国の国際競争力を回復する足がかりになる。中国やインドでは、ベンチャー企業を立ち上げる新たな起業家が次々と現れており、こうした優れた事業アイデアを持つ起業家を米国に呼び寄せ、米国で雇用を創出してもらうのがこの法案の狙いだ」
と述べる。
そして法案の推進派は、米国で高い失業率が問題になっている今、起業家ビザ制度の新設で世界中の優秀な人材が米国で起業し易くなり、米国人労働者の雇用拡大につながると主張している。
背景には米国内の起業率低下が…
調査機関グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)によると、米国居住者の起業率は2005年の12.4%から2009年には8%まで低下し、他方、米国以外の調査対象国の起業率は同じ時期に、8.7%から11%に上昇しているとのこと。
米ベンチャー投資会社Yコンビネーターの共同創業者ポール・グレアム氏は、
「起業家ビザ制度は、外国人起業家を米国につなぎとめる効果を発揮する。これまで投資した企業の中には、創業者が米国就労ビザを取得できなかったため、事業をあきらめて祖国に帰らざるを得なかったケースが度々あった」
と述べている。
起業家ビザ法案成立に期待するもの
この起業家ビザ法案は、「EB-6ビザ」という2年間有効の米国就労ビザ制度を新設し、認定を受けたベンチャー投資会社やエンジェル投資家から25万ドル(約2300万円)以上の資金を調達した外国人起業家にこの起業家ビザを発給するもの。
そして、2年後のビザ更新時までに米国内で常勤社員5人以上の雇用の創出か、100万ドル(約9000万円)以上の追加出資の獲得などをすれば、米国永住権を獲得できる。
エンジェル投資家ジェフ・クラビエ氏は、ベンチャーキャピタルは、いかに事業計画が魅力的であっても外国人起業家への投資を敬遠しがちで、その一因は就労ビザ取得の煩雑さにあるといい、過去6年間に出資した72社の新興企業のうち、CEO(最高経営責任者)が外国人の企業は4社のみだったとのこと。
しかし、法案が成立すれば、外国人起業家による新興企業への投資は以前より積極的になるともいう。
同法案の問題も…
法案成立に否定的な意見もある。
移民政策研究所(MPI)のデメトリオス・パパデメトリュー所長は、この法案が可決するかどうかは予断を許さないと語り、移民法改正に批判的な人々は、起業家として成功しない移民にも永住権を与える恐れがあるとする。
EB-6ビザ受給者の事業が失敗したらどうなるのかと疑問を持ち、事業が条件を満たさず失敗しても、米国に残ることができるためで、趣旨には賛成するものの法案は抜け穴と懸念している。
もう1つの争点は、この法案の成立によって、米国人起業家が外国人起業家との間で同じ投資資金を奪い合うことになるのではないかという問題だ。
直近の投資額はピーク時の20%以下だが…
調査によると、ベンチャーキャピタルによる米企業への投資総額は、ピーク時の2000年には1005億ドル(約9兆円)だったが、昨年は177億ドル(約1兆6000億円)にまで減少しているという。
これに対し、ケリー上院議員とベンチャーキャピタル各社は、起業家ビザの新設により、米企業への投資総額の減少というマイナス効果ではなく、増加というプラス効果が見込めると主張し、「起業家ビザ制度が軌道に乗れば、この制度を導入しない場合に比べて、米国内で創業する企業への投資は増加する見込み」と期待をしている。
VCs Push StartUp Visa Act
http://www.businessweek.com/technology/content/mar2010/tc2010033_186150.htm