伊藤製作所は金型技術のトップ企業
三重県四日市市にある
㈱伊藤製作所は、金型技術で全国的に有名で業績も素晴らしいが、ここに至るまでの経営戦略には見習うべき点が多い。
もとは父親の勧めで始めた金型製作だが、当初から「一歩先を行くモノづくり」をスローガンに新しい技術に取り組み、最新の機械を導入し続けている。
例えば放電加工機やCAD/CAMを80年代から導入している。CADは当時1セットで4000万円近かったが、前に作った設計データを活用できるため、数を重ねるほどその効果が現れ生産性が向上するもの。しかも図面を完成すれば、そのデータを用いてダイレクトにNC加工できることを見抜き、CAMを他社に先駆けて運用しているのだ。
他社にない技術・営業戦略展開で…
そして、同社の営業戦略の優れるところは、単に金型を作るだけでなく、自社でプレス加工も手掛けたこと。多くの金型屋は、金型を売るにも競合で買い叩かれるし、ノウハウも流出する。その点、自社で金型製造からプレス加工まで行い、その製品を売れば、安定した仕事になるというわけだ。
また、技術面でも光っている。無人化、高速化、精密化を追求するとともに、現在は冷間鍛造の要素を取り入れ、他社では不可能な技術をも実現している。
例えば厚さ8ミリの鉄板に、0.5ミリ径の抜き穴をプレスで空けるのだが、穴の精度は高く、コストはドリルで空ける方法の数分の1という。また、歯車や多数の突起などのある部品を、プレスの一発加工で絞り出すことによって、コストは切削加工の10分の1以下になっているとのこと。
フィリピンに着目が大正解
さらに、コスト戦略も秀でる。同社は97年にフィリピンに進出したが、あえてフィリピンを選んだのは、英語が通じ国民性が穏やかだという。中小企業でも優秀な大卒を採用できるため、難しい金型を製作するには好都合だったようだ。
フィリピン工場の業績も順調で、競合が少なかったことから、現地の家電メーカーや自動車部品メーカーの注文が入り、進出初年度から黒字になったという。
これも、かつて父親の代での漁網工場に、よく気心の知れたフィリピン人がたまたま働きに来ていたのがきっかけといい、良い巡り合わせがあったといえる。運も味方しているようだ。
フィリピンでは現地技術者も育ち、日本で大量受注した時には、フィリピンの技術者がCADで設計し、データをインターネットで本社に送ってくるという。また本社の製造現場が忙がしくなれば、フィリピンから技術者を呼び応援してもらうといった体制がしっかりとできている。
技術立国”日本”の生き方は…
発展途上国に工場を作ってコストを下げる一方、日本の工場では、最新鋭の設備を入れ高い技術力を保持しつつ省力化を図っていく。
こうした進め方は、厳しい国際競争の中で生き残るには最適な方策なのかもしれない。
そしてまた、隣国フィリピンとのこうした国際的な補完関係は、互いが良いつながりを持つこととなり、今後の両国関係にとっても好結果をもたらすのは間違いなさそうだ。